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「あなたを傷つける人」の心理 きずな喪失症候群 その20

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     ◎「家で狼、外で子羊」という男の正体

     ところで、買ってくれた人がもし優しい人であったときにはどうするか。混合型になる。それが先に書いた「母なるもの」をあくなきほど要求する人になる。そういう過大な要求をする人になる。つまり残虐なずるい人には迎合し、優しい人には横暴になる。
     これが「家で狼、外で子羊」と言われる男である。優しい誠実な人には狼となり、残虐なずうずうしい人には子羊となる。これがほんとうに混合型の人の愚かさである。
     心理的に病んでいるということは、人格の統合性がないということである。これは混合型などによく現れる。「自分は、人にこう接する」というポリシーのようなものはない。相手に甘えられれば、とことん甘えて相手を困らせる。その上、相手に不満になる。もっと甘えさせないからである。そして逆に相手が強ければ、とことん犠牲を払う。気に入られようと相手に尽くしてしまう。
     心理的に病んでいる人の言動を考えるときには、この人格の不統合性を考えに入れなければ説明できない。例えばある人を、「卑屈に迎合する人」と説明したとしても、その人がどこでも卑屈に迎合するわけではない。「凶暴な人間」になるときもある。何度も言うように、混合型である。
     さらに、同じように心理的に病んでいる人と言っても、きずな喪失症候群になる人と、燃えつき症候群になる人では性格がまったく違う。正反対なのである。そこもしっかりと頭に入れて心理的に病んでいる人を考えなければいけない。
     きずな喪失症候群型の花が買われると、燃えつき症候群とは違って、買った人にいろいろと要求する。もっと水をくれという。望む水をくれなければ、不満になる。「あんたが買ったんでしょ」と相手の責任を追求する。
     心理的に病んでいる人は、きずな喪失症候群と燃えつき症候群の2種類プラス混合型の三種類に分かれる。他の箇所にも書いたように、他罰型と自罰型である。「心理的に病んでいる人」というときに、この二種類は常に区別して考えなければならない。
     燃えつき症候群は、買ってくれた人が残虐な場合にも、買ってくれた人の言いなりになるがきずな喪失症候群は買ってくれた人が誠実な人でも自分の非現実的な要求を実現しないと、相手の怒る。「お前の愛はその程度なのか」と相手を責める。
     そして、きずな喪失症候群は常に相手を嫌いである。もともと人を恨んでいる。相手が好きなら、相手のすることにそれほど不満にはならない。もちろん燃えつき症候群も相手を嫌いである。自分の周囲の人を嫌いということは、二つの症候群に共通している。もちろん混合型も自分の周囲の人を嫌いである。だから生きるのが辛いのである。



     ◎心理的に健康な人は周囲の人間が好きである

     心理的に健康な人との決定的な違いはここである。心理的に健康な人は、自分の周囲の人を好きである。
     ある村でウサギがリスやタヌキと住んでいる。ウサギはリスもタヌキも好きである。そこでウサギは幸せである。
     別の村にはキツネが住んでいる。キツネは蛇が嫌いだけれども、蛇しか自分のところに来てくれない。キツネは蛇が嫌いだということに気がついていない。そしてキツネは生きるのが「辛いー、辛いー」と騒いでいる。
     ところでこれは別の箇所で何度も説明したが、人はまたきずな喪失症候群と燃えつき症候群との二つの種類だけに分かれるわけではない。さらに複雑な二つの混合型がいる。三つに類型化される。
     混合型はまことに複雑である。きずな喪失症候群と燃えつき症候群とはおよそ違ったものであるが、その、正反対とも言える両方の性格をもっているのである。相手と環境によって、搾取される側にも、搾取する側にもなる。
     よくいじめられっ子がいじめっ子にと言われるが、その複雑さである。だからといって、皆がこのようにいじめられっ子からいじめっ子に、いじめっ子からいじめられっ子に変わるわけではない。なぜかいじめられるだけの子供がいるし、いじめるだけの子供もいる。
     これが大人になっても同じなのである。典型的なきずな喪失症候群の人と、典型的な燃えつき症候群の人がいる。そこにこの混合型が加わる。ちょうど、敏感性性格という人たちがいるのと同じである。敏感性性格とは、強気と弱気が同じ人格の中に混合している性格である。強きの人とも言えないし、かといって弱気の人でもない。


     ◎初めから「金銭抜きのつき合い」などあるわけがない

     ところできずな喪失症候群の人にしろ燃えつき症候群の人にしろ、なんで人間関係ができないかをもう少し考えてみたい。
     一口に言えば、「返しがない」のである。人は初めからある人に特別の愛情をもっているわけではない。人は初めからある人に特別の親しみをもっているわけではない。縁があって出会ってから、次第次第に時間をかけて親しくもなっていくし、愛情を深めていくのである。とにかく関係を作るのには時間がかかる。
     自分があることをする。そのことにこれだけの反応があったからとまた、その人は相手のために何かをすることになる。たとえばこの原稿を書いている前の日に、私はある講演会に出かけた。通常の講演会の講演料の一割である。この忙しいときになぜそのような講演会に出かけるかといえば、それは講演を依頼してきた人が私の教え子だからである。単に教えたというのではない。
     私が会長をしている早稲田大学交響楽団がドイツに演奏旅行をした時である。私は三週間という長い期間、学生につき合った。それに、当時その楽団の中で秘書の役割をしていた学生が感激して、旅行中私に気を使ってくれた。学生はお金がないからいいホテルには泊まれない。しかし彼女は私が泊まる部屋には事前に入り、水道の水の出具合から始まって、部屋のすべてをチェックしていた。
     見えないところでする、そういう学生の態度に私が感激する。「先生は忙しい中を来てくれた」という気持ちに対する、彼女らの気持ちの「おかえし」である。
     そういうことの約二十年間の積み重ねの中で、ただでも喜んで講演に行くという関係ができてくる。
     私はその講演のときに東京駅に予定より早く着いたので、約束の列車の、一つ前の列車に乗った。私は彼女のことだから一台前の列車で行っても、ホームで待っているだろうと思ったが、やはり待っていた。私は約束の前の列車に乗っていく可能性もあるのだろうから。そのときに「約束の時間はこれこれだから」という考え方をする人は、人間関係ができない。
     きずな喪失症候群の人ならどうなるか。私がドイツ演奏旅行に一緒に行くとなれば、そのときには「忙しいのに」と感激するかもしれないが、時が経てば、それが現実の世話という行動には結びつかなくなってくる。来てくれたことが当たり前になっていく。
     また講演会でも、約束の時間でなければ待っていない。そして私がホームで待っていたとする。しかし、私との約束の到着時間には待っていたのだから、なんの失礼もないだろうという考え方になってしまう。
     そういうつき合い方をしているきずな喪失症候群の人は、あるときに知らない人にいきなり極端に安い講演料で「講演会を依頼する」。そして安い講演料で来ないと「あの人はお金だけの人」と相手を非難する。つまりお金ぬきのつき合いをする関係になっていないのに、お金ぬきで自分だけに特別に接することを求める。
     ◎信頼関係が出来上がるまで待ちなさい

     私はだいぶ前に、ある顔写真をただで撮影してもらった。それをしばらく本などに使っていた。それはある有名な写真家に撮影してもらったものである。聞いてみると、その写真家に顔写真を撮影してもらいたい社長などは、何百万円という料金を払うそうである。
     ではなぜ私はただでしてもらったのか。それはそういう関係になってから、写真撮影を頼んでいるからである。私はその写真家の方に何も言わないのに、ただにしてくれたのである。
     きずな喪失症候群の人はそういう関係を築かないうちに、ただで写真を撮影することを要求する。そして撮影してもらえないと、相手を「金銭だけの人」と非難する。
     ある人と出会う。その人が「あなたは立派な人だ」と言ったとする。するときずな喪失症候群の人は、これで「親しい」と思ってしまう。さまざまの体験の積み重ねがないうちに親しいと錯覚する。
     そして「これをしてくれ、あれをしてくれ」が始まる。そしてそれをしてくれないと「オレを好きではないだろう」と相手を恨みだす。あるいは「これくらいしかしてくれないのか」と恨みだす。「親しいのだから、これくらいしてくれてもいいだろう」となってしまう。そしていつになっても人間関係ができない。
     きずな喪失症候群の人は、「自分の側の返し」がないから相手が与えてくれないと思わない。相手も人間なのである。それがきずな喪失症候群の人にはどうしても理解できない。きずな喪失症候群の人は信頼関係を築く期間を間違えている。
     親しくなってからなら要求してもおかしくないことを、親しい関係ができる前に要求してしまう。そして断られると相手を恨む。いつになっても人間関係ができない。
     たとえば、きずな喪失症候群の編集者である。著者に初めて電話するのにも、十年以上のつき合いのある著者と話をするような口ぶりになる。親しみやすい人柄を演技しようとするが、厚かましさしか感じられない。長年にわたる著者と編集者とのつき合いの中から生じる信頼関係があるから、電話一本ですむこともある。あるいは会いたいときに「ちょっと、時間を作って」と無理を言える。
     きずな喪失症候群の人には、この関係を築くということが理解できない。



      あとがき

     ◎人間関係の贅沢は最高の贅沢

     何をもって贅沢(ぜいたく)と言うかは、人によって異なるだろう。お金が有り余るほどあることが贅沢だ、と思う人もいるだろうし、贅沢とは人間関係のことをいう、と思う人もいるだろう。サン=テグジュペリは「心の贅沢とはただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ」と述べている。これも一つの考え方である。
     なんとなく落ち着かないとか、やりきれないほど退屈だとか、なんだか知らないけれどもイライラするとか、ひどく孤独だとか、たまらない疎外感とか、重苦しい憂鬱とかいう否定的な感情に苦しめられている人は多いだろう。こうした否定的な感情を解決するには、どのような方法があるのだろうか。そのうちの一つは今現在の人間関係の変更である。
     それらの不快な原因は、お金のないことだと思う人がいるかもしれない。では、それらの否定的な感情は、経済が好況になれば解決するのだろうか。解決できないと考えるほうが正しいようである。否定的な感情と経済的な不況の関係についての調査がアメリカにある。それによると、経済的な不況と否定的な感情とはあまり関係がない。
     経済が不況だからといって、人々の否定的な感情が増大するわけではない。つまり、なんとなく落ち着かないとか、やりきれないほど退屈だとか、なんだか知らないけれどもイライラするとか、ひどく孤独だとか、たまらない疎外感とか、重苦しい憂鬱な気分の人は経済が好況だろうと不況だろうと、それには関係なくそういう感情なのである。経済が不況になったからといって、その否定的な感情が増大するわけではない。
     経済的な不況によって影響をうけるのは、肯定的な感情である。つまり喜びとか、達成感とか、誇りのような肯定的な感情が経済的な不況によって減少するのである。考えてみれば、何も調査をしなくても、日常的にこのことは私たちが感じていることではある。経済が不況になると、なんとなく街にも人々にも活気がなくなる。
     お金があれば、酒を飲みにいって楽しむということはできる。資金があれば、新しい仕事に挑戦することもできる。そこで肯定的な感情を得ることはできる。しかしお金では、先に述べたような否定的な感情は解決できない。
     しかしこうした否定的な感情は、初めに書いたように人間関係の改善で解決できるところがある。今の人間関係を変えれば、否定的な感情は変わるかもしれない。今あなたが否定的な感情に苦しめられているとすれば、あなたは間違った人とつき合っているのかもしれない。
     人間関係は、幸せの大きな源にもなれば、不幸せの大きな源にもなる。幸せな人は、人間関係が豊かである。幸せな人は、人間関係を間違えていない。幸せな人には、親しい人がいる。信じられる友達がいる。社会に積極的に参加している。
     それに比べて不幸せな人は、親しい友達もいなければ、信頼する恋人も配偶者もいない。親兄弟とも心をひらいて話をしていない。とにかく人間関係がうまくいっていない。


     ◎人づき合いに必要なトラブル、不要なトラブル

     ただ間違えないでほしいのは、人間関係がうまくいくというとと、トラブルがないということは別である、ということである。人間関係にはトラブルがつきまとう。人間関係のトラブルが嫌ならば、人間関係をなくせばいい。離れ小島に一人で住めばいいのである。自動車事故が嫌ならば、車に乗らなければいいのと同じである。
     人間関係が密になればなるほど、どうしても問題は出てくる。子供のいる家庭と子どものいない家庭では、どちらが結婚生活の緊張が高いかの調査がある。結婚生活の緊張が高いのは、子供のいる家庭である。当然、夫婦で子育てについて議論したり、子供への接し方から問題が出たりと、緊張は高まり、結婚生活は、そう穏やかというわけにはいかない。
     米国で行われた、29歳から49歳までの、結婚している男性360人に対する調査である。子供のいる結婚生活の41%は緊張が高いのに、子供のいない結婚生活の場合には緊張が高いのは24%である。なんのかかわりもない赤の他人なら、問題は生じない。
     誰とかかわろうと、関係をもてばトラブルは出てくる。人と親しくなるのにトラブルなしに親しくはなれない。だからこの本は、人間関係のトラブルを避けるための本ではない。

     ただ人間関係には避けられないトラブルと、避けられるトラブるとがある。避けられないトラブルとは、親しくなる過程のトラブルである。トラブルを通して相手を理解することができてくる。
     それに対して、避けられるトラブルというのがある。それはあなたが消耗するだけのトラブルである。トラブルがあっても人間関係は改善されない、お互いに親しくもならない、ただ不愉快なだけのトラブルがある。あなたの死を早めるだけのトラブルがある。この本で説明したのは、このあなたの死を早めるだけのトラブルである。そして、それをどう避けるかということである。
     しかし不思議なことに、悩んでいる人はこの避けられるトラブルを避けようとはしないことが多い。そして、不幸な人ほどその人間関係を変えようとしない。悩んでいる人は、自分に不幸をもたらす人間関係にしがみつく。自分を傷つけている人にしがみつく。あるいは、お互いに傷つけあいながらも別れない。
     たとえ別れることがあっても、また同じタイプの人間と結びつく。お互いに傷つけあいながら離れられない関係がある。お互いに依存心をもった人同士の関係である。あるいは、この本で説明してきたような人たちとの関係である。性格も合っていない。


     ◎トラブル回避と最良の方法は別れること

     毒があったり、依存心が強ければ、トラブルは避けられない。だから、こうしたトラブルに際しての最良の選択は、別れることなのである。お互いに別れることが、トラブルを避けるベストな方法なのである。とにかくこうした毒のある人々とは、別れることである。きずな喪失症候群の人とは別れることである。
     先に避けられるトラブルと言ったのは、別れるという意味で避けられると言ったのである。関係を維持していれば、トラブル続きである。この本では「こういう人」とつき合っていても幸せになれない、ということを書いたつもりでいる。いや不幸になると書いた。
     幸いにしてその人間関係が壊れたときには、もう戻ってはいけない。先へ進まなければいけない。しかし依存心をもった人は、また同じ人とくっつく。同じ人と再びくっつかなくても、同じ種類の「毒のある人」とくっつく。そうして、自分のたった一度の人生を無駄にしていく。
     人はそれぞれの器、それぞれの能力に応じて仕事ができる。運命が違うのだから同じにはなれないが、生きることをそれぞれの立場で楽しめる。そして、それなりの幸せをつかめる。
     それのできない人は、どんでもないことにエネルギーを浪費しているのである。そのエネルギーの浪費の中でも最たるものが、毒のある人との人間関係でのトラブルである。それに消費されるエネルギーは、莫大なものである。そのトラブルに費やされるエネルギーを、親しくなれる人との関係に向けられれば、幸せになれる。
     この本が、あなたが誰とつき合うかの選択の手引書になってくれれば著者としては嬉しい。
     なおアメリカのDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,American Psychiatric Association:精神障害の診断と統計の手引き)では、今は神経症という言葉ははずされている。しかしこの本では、従来どおり神経症という言葉を使った。私は、自己実現をできない抑圧の強い人、というくらいの意味で使った。
     最後になったが、この本の出版も福島広司君と西村映子さんのお世話になった。いつもどおり紙面を借りて感謝を表したい。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

     さて、全力でやってしまいましたがどうでしたでしょうか。心理学というとなにか特別なものと思われがちですが、割とありふれて身近にある人付き合いを深く突き詰めたものなのです。もちろん、心理学だけで全てのことが紐解けるとは言いませんが、心の中で掴みかねていた気持ちが明らかになった方もいるのではないでしょうか。
     心理学は学問というより心術に近いものなので、心理術と言ったほうが筋が通りやすいかもしれません。知識というより技術に近いものです。だから、同じことを習っても人によって使い方用いり方が違います。心理学者と言っても人によって、話す中身はかなりその人の人柄に左右されます。加藤諦三さんはその点、他の方に比べて読者に媚を売ったり甘やかしたりせず、はっきりと厳しく前向きなことを言われており、実際僕の人生経験の中で当てはまることが幾つもあったので信用しています。加藤諦三さんの本はしばらくたってからまた読むと、前読んだときとは違ったことに目がいって、新たに得るものがあるので気に入った方は是非お手元に置いてみてください。
     皆さんにも何かの助けになれば幸いです。
    葉風 * 読み物(生き方) * 14:40 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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